SPORTS TOPICS スポーツ栄養士・中野ヤスコさんが教える「スポーツキッズを伸ばす食事・栄養 4つのポイント」 2016.1.7

バランスのとれた食事の例

「くるみキッチン」のランチプレート。バランスのとれた食事としてもオススメ

 

近年では、フィギュアスケートの羽生結弦選手やテニスの錦織圭選手らが個人で管理栄養士をつけるなど、スポーツと食事の関係が注目されるようになってきました。もちろんその重要性は、トップアスリートだけではありません。特に成長期の子どもたちにとっては、スポーツの成績だけでなく、健全な成長のためにも食事や栄養が大切です。

そこで今回は、トップアスリートから中学生まで、幅広い年代や競技の選手に食事の指導をしている藤枝市のスポーツ栄養士・中野ヤスコさんに、今日から実践できる「スポーツキッズを伸ばす食事・栄養術」を聞いてみました。

中野さん

管理栄養士の中野ヤスコさんは、スポーツ栄養士としても活躍中。県内の中高生から日本のトップアスリートまで幅広い年代や競技の選手たちに、コンディションやパフォーマンスを上げるための栄養指導を行なっている

 

 

“食”に関するさまざまな活動に取り組んでいる中野ヤスコさん。「食の学び舎くるみ」を運営し、管理栄養士としてスポーツ選手への食事指導のほかにも、幼児から大人を対象にした食育講座や料理教室、学校給食やカフェのメニュー、農業関係者や水産関係者と一緒に新商品開発に携わるなど、多方面で活躍中です。食の重要性を広く伝えていくために、自ら藤枝駅の近くに「くるみキッチン」という自然食中心の、健康なからだづくりをテーマにしたカフェレストランもオープンしています。

こうした幅広い経験を踏まえた食事指導はスポーツ選手にも大好評。陸上競技の実業団の海外合宿に帯同したり、県内の高校野球チームに栄養指導を行なったり、中高生アスリートに毎日の食事を個別指導したりと幅広く事業を展開しています。

そんな中野さんが、スポーツ選手の“からだつくり”のための、4つの基本的な考え方について教えてくれました。

野球部への指導

中野さんが高校の野球部で栄養指導を行なっている様子。選手たち自身にわかりやすく知識を与え、自己管理をうながしている(写真提供:食の学び舎くるみ)

 

 

【“からだつくり”の4つの基本!】

基本1:魔法の食べ物はありません!

「親御さんたちと話をしていると、よく『何を食べたら勝てますか?』とか『何を食べたら背が伸びますか?』と聞かれるんですが、そんな“魔法の食べ物”はありません。オリンピックに出ている選手も、特別なものは食べていません」

というのが中野さんの第一声。「でも、皆さん『わかってますよ』と言いながらも、何かあるだろうと期待しているんですよ(笑)。なので、まずは魔法や特効薬は存在しないという現実を理解することが大事です。」

では、その大前提を理解したうえで何が大事になるのか。それは「基本的な栄養バランスの食事によって、土台をつくること」だと中野さんは言います。

「人の身体は、食べているもので作られています。そのバランスがとれていないと、成長の土台となる健康状態が保てません。土台がないのにカルシウムだけを増やしても背は伸びませんし、鉄分だけとっても貧血はよくなりません。特に子どもは、まずはバランス良く栄養を取ることがいちばん重要です」

バランスが良い食事によって消化や便通なども含めた体調を整えることが、順調な成長や体力の向上にもつながり、「そうしたベースのうえに個人差や競技ごとの特性に応じたプラスαを加えていく」のが中野さん流の指導法だそうです。

食事バランスガイド

厚生労働省が提唱している「食事バランスガイド」をわかりやすくイラスト化したもの(厚労省HPより)。簡単に言うと「主食が5~6割、2番目に野菜を多くとって、3番目に肉・魚など。あとは果物と乳製品を少しとって、お菓子などは心の栄養程度に」(中野さん)というイメージ

 

では、バランスのとれた食事とはどんなものか?それは、厚生労働省が提唱している「食事バランスガイド」(写真上)に従ってもらえれば大丈夫とのこと。ただ、毎食、毎食すべてバランスを整えるのは、大変なこと。そこで……

「たとえば昼が牛丼だけしか食べられなかったとすると、そこで足りないものを夕食で補えば大丈夫です。あるいは3日間というスパンの中で、バランスを整えていくようにしてください。毎日のことですから、楽しく気軽に意識してみてください。オススメは毎食の写真を撮っておくことです(写真下)。以前レコーディングダイエットが流行りましたが、今ならスマホで写真を撮っておいて、それを見ながら何が足りないか考えて、補っていけば良いと思います」

LINEの画像

中野さんは、栄養指導を担当している選手とLINEで直接連絡をとり合っていて、その日食べたものや体重・体脂肪などを毎日報告してもらい、それを見ながら「もう少し○○を食べましょう」などとアドバイスしている。このように毎回の食事を撮影しておくことは、親が栄養のバランスを補っていくためにも非常に有効だ(写真提供:食の学び舎くるみ)

 

基本2:食べる時間が大切!

「スポーツ選手にとっては、何を食べるかだけでなく、“いつ”食べるかというのもすごく大事です」と言う中野さん。その理由を聞いてみると……

「空腹時に運動をすると、筋肉を動かすエネルギー(筋グリコーゲン)が不足している状態ですので、当然パフォーマンスが落ちますし、そこで無理に筋肉に負荷をかけるとケガもしやすくなります。また、糖分が足りないと脳の働きも鈍り、判断力も低下します。だから、試合や練習の前には、炭水化物(グリコーゲン)を消化しやすい形で補給しておくことが大事です」

「一方、試合や練習が終わった後は、筋肉を酷使して損傷しているので、それをなるべく早く修復することが大事です。たとえるならば、洗い物をして手が荒れたときに、そのまま放置しておくのと、すぐにクリームを塗るのとでは、次の日の状態が全然違いますよね。筋肉もそれと同じで、すぐにエネルギーやたんぱく質といった栄養を補給することで、次の日に残る疲労が全然違います。それに筋肉は、壊して治して、壊して治しての繰り返しで強くなるので、その意味でも早い修復は大事になります。同様に、骨の成長についても、同じように負荷と栄養補給のサイクルが大事です」

とはいえ、学校がある子どもたちの練習は、夕方や夜間など、本来の夕食時間にかかることが多く、そこが難しいところ。

 

そこで中野さんが教えてくれた具体的なポイントは以下の通りです。

<練習の前後>

・学校が終わってそのまま食事をせずに練習に行く場合は、移動中でも良いので炭水化物とたんぱく質が入った軽食(鮭のおにぎり、肉まんetc.)をとる。その際、野菜は多くとる必要はない

・練習中の水分は、一度に吸収できないのでガブ飲みではなく、こまめに飲む。一時間以上の練習であればエネルギー補給や電解質の調整、熱中症予防のためにも糖分やミネラルなども補給する

・練習後は、自宅に帰って食事がとれるなら、すぐに帰宅しバランスのとれた夕食をとる

・帰宅までの移動時間が長いなら、移動中に小さなおにぎり1つとオレンジジュースなど(クエン酸が入ったもの)をとる。ただし、補給量は夕食に大きく響かない程度

・帰宅が遅くなっても、夕食はきちんと食べる。練習前後のセットで1食というイメージで、補食で足りなかった分のご飯や野菜、たんぱく質などをとる

 

<試合の前後>

・試合前日から炭水化物を増やして、脂質や繊維質を減らし、生ものは避ける

・試合当日は、脂質の少ない、炭水化物多めたんぱく質そのままの朝食を3時間前に食べるのが基本。夏場はスープや味噌汁も塩分補給の意味でオススメ。野菜は少しでよい

・試合開始時間や試合数は競技によって変わるので、変則的な場合はエネルギーゼリーなどの補食も用意する

・練習同様、試合後はコーチのお説教の前に(笑)できるだけ早く(なるべく30分以内に)補食をとる。きちんとした食事がとれない状況であれば、バナナ、おにぎり、牛乳、肉まん、100%オレンジジュースなどでもOK

 

基本3:心の栄養も大切に

「いくら栄養があっても、暗いところで冷たいものを1人ぼっちで食べるのは美味しくないですよね。やっぱり家族が温かいものを作って待っていてくれて、みんなで食べると楽しいし、疲れていたり落ち込んでいたりしたときも癒されますよね。スポーツではメンタル的にもいろいろ負荷がかかるので、そういう心の栄養もすごく大事だと思います」

機械に電気や油を補給するのと、人間が食事をとるのは違います。食を楽しむ動物は人間だけですし、ただエネルギーや影響を摂れれば良いというわけではありません。楽しく美味しく食事をとることが、いろんな意味で重要だと中野さんは言います。

「練習や試合後の食事が楽しみになれば、それに向けて頑張れますし、消化や吸収も絶対に良くなるはず。そういう習慣があれば、大人になっても栄養がしっかりとれるようになると思います」

食事提供

暖かくて美味しい食事を家族に作ってもらい、楽しく食べることは、子どもたちの心の栄養にもなる。食事自体が練習や試合後の楽しみになれば、栄養補給も効率良くできるので、ぜひそんな雰囲気を作ってあげてほしい(写真は中野さん)

 

基本4:子どもが自分で選べるような教育を

「子どもが成長してくると、いつまでも親がすべての食事を管理することはできません。たとえば遠征や合宿に行ったら、バイキング形式の食事もあったりして、そこで何を選ぶのか。また、子どもに500円を渡して練習前に何か食べなさいと言ったときに何を買うのか。子どもが自分で良いものを選べるようになる必要があります。親が過剰に干渉することより、そういう教育をしていくことのほうが大事です。10歳ぐらいになったら、そういう指導を始めていくべきだと私は思います」

今は「つねに親の顔色をうかがっていたり、いちいち親に確認したりする子が多い」と中野さんは言います。それは、過保護や過干渉をしてしまう親が多いからかもしれません。スポーツでは、自分で考え、判断して、自分で行動しなければいけないことが多いので、食事の面でも自己管理ができるように教育していくことが大事です。

そのために、「親は子どもを信じて、辛抱強く見守りながら自分で考えて行動することを促すことが大事です」と中野さんは最後につけ加えてくれました。

サッカーをしている中野さんのご長男には、「今度、日本代表に呼ばれたら? 海外で自分の身の周りのことは全部自分でできるようにしておけばすぐにいけるね!  トップの選手は、洗濯も、食事管理も自分でしているよ」と言い聞かせているそうです。

くるみキッチン外観

「くるみキッチンプラス+」(藤枝市青木)の料理。静岡県内のテレビ番組にも何度か紹介されていて、ヘルシーで美味しい食事をとれるお店として注目を集めている。

 

中野さんの挙げた4つの基本、いかがだったでしょうか?

どれも今日から実践できることばかりなので、ぜひできる範囲で少しずつ取り入れてみてはいかがでしょう。そして、競技や年齢に応じたより詳しいことを知りたければ、中野さんらの専門家に相談することがやはり大切です。

スポーツにとって“食”や“栄養”の果たす重要性がもっと理解されて、将来、素晴らしいアスリートたちが静岡県からもっと巣立っていくといいですね。

くるみキッチン内部

暖かな雰囲気の「くるみキッチンプラス+」外観。最近話題のスーパーフードなど中野さんオススメの食材も販売されていて、担当選手の面談などにも使われている

 

 


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